賀川豊彦をラディカルに読む 生協労働運動の使命とは?

                        大杉 仁一郎

 

 私は、とある生協に勤める労働者で、労働組合の活動家の一人である。今年は日本の生協の父と呼ばれた賀川豊彦が献身してから100年の年だ。賀川は日本最大の生協、コープこうべの生みの親である。彼の社会運動の経験の原点というべきなのは、1909年、21歳で神戸市の貧民街に住み、病者保護や無料葬儀などの救貧活動を始めたことであった。

 

年越し派遣村

 

 今年は日比谷公園に年越し派遣村が出現し、反貧困ということばがクローズアップされた年でもある。昨年秋以降の派遣切りはまさに資本主義社会がいかに残酷なものであるかを見せつけた。それは政府が率先して進めてきた労働者派遣法の度重なる規制緩和の結果でもあった。派遣労働が可能な職種が拡大され、日雇いスポット派遣が当たり前となった。派遣村は企業と政府とが一体で進めてきた労働者をたやすく使い捨てにして、利潤を追求するという流れにノーをつきつけた。金融危機以降急速に進んだ派遣切りによって犠牲となった多くの失業者は、派遣村に結集することでとりあえずの宿と食事を手にしたと共にそこに共に闘う仲間を見出した。派遣村の闘いによって1月2日には、厚生労働省が自省の建物内にある講堂を、同省が業務を開始する1月5日の午前9時まで宿泊所として提供することになった。一方、5日以降の宿泊場所も提供するよう同省に要請し、中央区に2箇所、練馬区と山谷に各1箇所、計4箇所の臨時シェルター設置が決まった。当事者である派遣切りとなった人々によるデモ行進など当事者自らが歴史を切り開いたのである。

 この運動を支えたのは多くの労働組合の活動家達であった。今回の派遣村は連合、全労連、全労協というナショナルセンターの違いを越えて様々な労働組合の活動家が結集し歴史を動かしたのである。

 

労働者自治と消費者自治

 

 賀川の主要な著作の一つ、「自由組合論」は「労働組合は自由社会の本源をなすものである」と述べている。そして労働者の自由意志により結成された労働組合を「自由組合」と呼ぶ。そして「故に我らは真の自由を愛するが故に武力による社会組織の革新を思わず、社会本能の成長を持つ自由組合の進化を基礎とした徐々として社会の改造を設計すべきである」と述べる。彼が労働者自治社会、労働者自主管理主義を展開していたことはほとんど無視されがちである。

 いわば「自由組合論」は労働者の自治がテーマであったとすれば、「家庭と購買組合」は消費者の自治がテーマであったと言える。即ち消費者組合と生産者組合はギルド精神により今日の資本主義的自己中心の社会組織に代わって世を支配せねばならぬ、とも述べている。

 こうした彼の思想は日本における生協運動の源流である。こうした思想は今の生協に引き継がれているとは残念ながら言えない。

 

生協労働の現場

 

 その生協運動の現場でもコスト削減の圧力が強まりつつある。生協の全国的組織である日本生活協同組合連合会の2006年度活動方針の中では、余剰人員対策を正面にすえた人件費削減の徹底、とりわけ正規職員を中心とする余剰人員対策の実行が必要であり、正規・パート・外部委託の労働力編成の大胆な転換を進めると記載されている。まさに経団連など財界の主張とほとんど同じ内容である。

 かつて生協では地域の消費者が班と呼ばれる数人のグループをつくり、数人分の商品を一か所に届けるという共同購入が事業の柱であった。しかし今の生協事業の中では個人宅配と呼ばれる一人一人の自宅まで商品を届ける事業が主流となりつつある。運輸会社に委託し、個人宅配を成長させていったが、個配手数料の値下げ競争が続いてきた。生協の現場はパート、アルバイト、契約職員、そして派遣職員と雇用形態が多様となった。競争に生き残るための一番安易な方法としては正規職員採用を抑え、パートアルバイト、契約職員、派遣職員などいわゆる非正規雇用を増やすという手段がとられたからだ。

 その中で労働負荷は新規組合員の加入説明の担当者に集中しがちである。ある職場で4週4日の休みもままならない所も発生している。職員は休日を疲労回復で寝て過ごすという実態も聞いている。

 今日の生協運動のおかれた状況は賀川の目指した社会とは大きな隔たりがある。果たしてこのギャップを埋める事は可能なのか?

 それのカギを握るのは唯一生協における労働組合の存在である。原点に立ち返り、生協における労働組合は生協の意義を根本的にラディカルにとらえ返し、現在の過酷な状況に立ち向かう必要があるのではないだろうか?

 実際生協の労働組合を全国的に組織している生協労連でも働き方の見直しをしようという動きも出てきている。

 

労働組合とは

 

 私は労働組合とは賃金労働条件を改善すると同時に働き方も変革し、そのことを通じ、社会とつながり、社会を変革する存在と考える。それは、本来は革命運動とも近い質を持つと考える。特に本来、生協の出自は社会を変える運動であった。社会的炉道運動という言葉が使われているが、社会を変革する事を職業とする生協において、労働運動は必然的に変革運動としての性格を持たざるを得ないと考える。その原点を抜きにして語れない。最後に賀川の残した文章を引用したい。

 「我々はただ、労働の労働条件を改善のために労働組合を要求するものでない。賃金の要求や時間の短縮の要求は労働運動のABCである。それで満足するなら資本家は喜んで居るだろう。(中略)資本家の生産のための生産、金儲けのため金儲けの道具に使われていると思えばなさけ無くなるのである。(中略)真の社会は人間性を中心とした労働そのものを尊ぶ社会組織−即ち労働組合そのものの外に真の尊厳に至る道はないことを社会に教えなければならないのである。」(賀川豊彦著「自由組合論」)

 

精神障がい者への保安処分=「医療観察法」の廃止に向けて、7・26集会への結集を

北村 祐

 

1 はじめに

 

 医療観察法は、確実に精神障がい者を地域から排除している。2005年7月15日からの適用実態を見ると、検察官の申し立て件数1415件のうち1374件は既に決定されており、内訳は入院825件、通院252件、不処遇239件、却下46件、取り下げ12件である(09年4月30日現在)。

 一方指定入院医療機関の病床は、720床が目標とされてきたが、施行時はわずか2施設、66床、現在もまだ441床(国関係13施設、386床、都道府県関係3施設、55床、09年4月)に止まっている。この入院施設の不足を、現在指定外の病院を利用するという法の目的を侵害する措置が行われている。更に、自殺者が既に12名(入院3名、通院9名)出ている。これは、通常の精神科における自殺者の数値に比べると格段に多い数である。

 私達は、このような「医療観察法」を廃止すべく運動を続けてきており、闘いを一層強化するために、昨年7月、新たに「医療観察法をなくす会」を40数名の弁護士、精神医療関係者、障がい者、労組関係者等と共に結成し、国会や関係諸団体、マスコミ等に働きかけをしている。去る6月2日には、第2回目の院内集会を行った。

 

2 何が進行しているのか?

 

 指定外の病院も認める措置は、昨年8月1日に省令改悪によってなされた。すなわち、指定入院医療機関の病床に余裕がない場合、@入院決定を受けた対象者、またはA入院中の対象者について、指定入院医療機関以外の医療施設(特定医療施設)または指定入院医療機関の病床のうち指定を受けていない病床(特定病床)において、法の「入院による医療」を行う措置を可能としたものである。措置の上限期間は、@(一項措置)は最大3カ月、A(二項措置)は最大3カ月、最大6カ月と規定された。しかしその後、今年3月10日、一項措置の上限期間を、特定病床の場合最大6カ月に延長した。そればかりか、特定医療施設の人員配置基準も緩和し、「精神科緊急入院料もしくは精神科急性期治療病棟入院科を算定する病棟」より少ない基準でも特定医療施設として認めたのである。

 また、昨年7月25日には、最高裁判所の決定がなされた。これは、地裁で医療観察法による医療を行なう必要はないと不処遇の決定がなされたにもかかわらず、高裁で差し戻され、最高裁判所が再抗告を棄却し、地裁は入院を決定し指定入院医療機関に送られたケースである。最高裁は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行ったものの医療及び観察等に関する申し立てがあった場合に、医療の必要があり、対象行為を行う必要があり、対象行為を行った際の精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰できるようにすることが必要な対象者について、措置入院等の医療で足りるとして、医療観察法による医療を行わない旨の決定をすることは許されない」としたもので、これは多くの反対意見により「再犯予測は不可能」と条文を削除されたことを否定するものである。

 この様に「再び対象行為を行う恐れの有無」は削られたが、法の目的は「同様の行為の防止をはかり」(第1条)となっており、この法律はまぎれもなく治安を目的としている。

 そればかりではない。3年前に成立した「障害者自立支援法」は、障がい者福祉を解体させるものである。小泉内閣以来進められてきた市場原理主義は、福祉のサービスを「商品」として細切れにして提供する一方、それを利用する障がい者に自己負担を課し、彼らの少ない収入を更に収奪するものとなっている。

 ところで、06年7月、杉浦元法相から諮問を受け、法制審議会「被収容人員の適正化方策に関する部会」は「被収容人員の適正化を図る」と共に対象者を「性犯罪者と薬物犯罪者」として、「再犯防止・社会復帰を促進する」という観点で行われている。今年1月第18回の審議会で、法務省は、「刑の一部執行猶予制度」「社会貢献命令」を新設する「参考試案」を提示し、国会上程を目指している。

 これらの動きには「重罰化」と「再犯防止」の思想が一貫して流れている。

 

3 医療観察法の廃止に向けて、共に闘おう!

 

 アメリカは9・11以降、「テロの脅威」を拡大再生産することで、市民社会に対して露骨な反テロの治安監視体制を強化してきている。わが国においても、グローバルな動向は連動しており、治安管理体制の強化は進行している。

 「医療観察法」は、「医療」の側面を持たざるを得ないものであったため、国は、本格的な保安処分体制の、全社会的な導入を図ろうとしている。最近の法務省による様々な動きは、「刑が終わればそれで終わり」とするのではなく、「贖罪しないものは刑務所から出さない、死ぬまで監視・管理し、危険とみなせばいつでも収監できるようにする」という攻撃に繋がっている。2010年の「医療観察法」の見直しは、このような「再発防止」制度を全社会的に作り出す事、すなわち全社会的な保安処分体制を導入する攻撃と一体となったものである。私たちはこのような本格的な保安処分の導入に反対し、「医療観察法」の廃止を勝ち取っていきたいと思う。7・26集会に結集しよう。 

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