(3面)

 今日の政治情勢の中で新たな計画を創造する実践を!

流広志

 

830日投票の衆議院選挙で、自民・公明の連立与党は大敗を喫し、民主党が308議席を取って圧勝した。自民党政権は倒れ、政権交代が実現した。これは、自・公政権に対する人々の大きなNOの声であったことは間違いない。この政治情勢を、どのように、労働者階級、被抑圧者、被差別者の解放運動の前進につなげていくのかが問われている。

 

 1993−2008

 バブル崩壊後のブルジョア政治過程の概括

 

 90年代初頭、竹下政権時の85年「プラザ合意」後の円高不況対策として実施された金融緩和がバブルを生み出して、双子の赤字に苦悶していた米帝を助けながら、しかし、89年ブラックマンデーを契機にバブルが崩壊し、日本経済は下り坂にあった。

 社会党は、93年細川連立政権に政権参加した後、羽田連立政権には政権参加しなかった。そして、946月発足の自民・社会・さきがけ連立政権に参加、社会党村山首相が誕生する。村山は、94年の大130回国会での所信表明演説で、「自衛隊合憲」、「日米安保堅持」を明言し、大転換を行った。951月に阪神大震災が起き、3月にはオウム真理教による地下鉄サリン事件が起こる。オウムという宗教団体に対する破防法適用を公安調査庁に申請した。

 村山政権は、96126日に瓦解し、後継の橋本連立政権は、「日米安保共同宣言」を発し、米帝との一体化の道をまい進し、財政再建路線を優先し、「行政改革会議」を発足させ、新自由主義的な構造改革政策を実行し、411日に、消費税率の5%への引き上げを強行した。97年夏には、アジア通貨危機が起こる。11月には、北海道拓殖銀行、4台証券の一角の山一證券が破綻する。橋本政権は、景気悪化に対して、手を打たなかったことなどから、参院選で大惨敗を喫する。村山政権下の95年、日本経団連は、「新時代の日本的経営」を公表し、現在にいたる雇用の三段階制への以降を提案する。それは、その後、98年の派遣原則解禁、2005年の製造業での派遣解禁へと結実し、それが、ワーキングプアの大量発生につながる。

 987月、自民党・小沢自由党・公明党連立の小渕政権が誕生する。この年、労働者派遣法を改悪し、それまでの派遣原則禁止から、派遣を原則解禁にした。翌年1月には、周辺事態法、国旗・国歌法、盗聴法などを成立させた。小渕首相は、「日本一の借金王」を自称し、総額42兆円のばらまきを行った。そして、ITバブルが発生する。彼は、中央省庁再編を推し進め、総務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省を新設した。小渕は、自由党との連立協議の決裂直後、、突然、病死し、総裁選を経ないまま、森が首相となる。自由・公明・保守の森連立政権は、01426日に倒れた。それまで泡沫候補だった小泉が、地方党員の圧倒的な支持をバックに首相となった。靖国神社に6回も参拝したように、この新自由主義者は、国家主義者だった。彼は、拉致問題解決のためとして、朝鮮民主主義人民共和国を電撃訪問し、4人の日本人を連れ帰ったが、世論のj反発を買い、その後の日朝交渉は長く停滞することになった。小泉は、05年郵政民営化法案が参議院で与党議員の造反もあって否決されると、衆議院解散総選挙に打って出た。その結果は、与党合計327議席の圧勝だった。郵政民営化、賛成か反対かというシングル・イシューで解散総選挙をやるのは前代未聞のことである。日本のためには、米帝がつきつける年次改革要望書を実行するしかないという「愛国心」もあったろう。

 小泉後、森派の首相が続くが、いずれも短命に終わる。確かに、小泉政権の時代には、多少の経済成長が見られたが、それも実感なき成長と言われたように、成果の配分どころか多くの人々にはただ痛みだけが増えつづけたのである。

 政策の重点は、憲法改定や教育基本法改定などのイデオロギー的な問題になっていく。しかし、いずれも中途半端なままで、069月安倍、079月福田、089月麻生と、政権は次々と変わったが、彼らは、基本的には、小泉の置き土産の多数議席の上にあぐらをかいていたにすぎなかった。それでも、安倍内閣は、教育基本法改悪や改憲手続法である国民投票法を通した。

 

  米帝は戦時体制下にある

 

 米帝は、イラク戦争でフセイン政権を武力で打倒し、イラクを占領したが、泥沼に引きずりこまれて、大幅増派を余儀なくされた。ブッシュ政権下で、イラク戦費は膨れ上がり続け、米軍犠牲者が増え続けていった。もちろん、その何倍もイラク人の死傷者は増え続け、大量の難民が発生している。黒人の圧倒的多数、その他のマイノリティの多数の支持を受けて当選したオバマ大統領は、イラクからの早期撤退と対テロ戦争の最前線をアフガニスタンに移した。ブッシュの後押しを受けて、パレスチナへの圧力を強めていたイスラエルは、0812月、ガザ地区に空爆を開始し、地上部隊を展開し、ガザで虐殺攻撃を行った。米帝は、このイスラエルの蛮行を支持し続けた。それに対して、アラブ・イスラム世界、欧米など、世界で、数千万規模の抗議行動が起きた。

 米帝では、089月のサブプライム・ローン破綻に端を発した金融恐慌で、自動車というアメリカを代表する産業部門のビッグスリーが次々と破綻し、政府による救済・再建の道を歩まざるを得なくなった。その後の景気後退の中で、今や、97%という高失業率に陥っている。それに対して、1月に大統領に就任したオバマは、すでに、赤字国債発行の上限額を大幅に上方修正し、財政資金を大規模に投入して景気浮揚策をはかった。09年度のアメリカの財政赤字は、11カ月間の累計で、08会計年度の3倍の125兆円に膨らんだ。オバマ政権は、発足以来、総計7800億ドル(約702千億円)規模の景気対策を実施している。AFPの926日の記事によると、「米ホワイトハウスは25日、201019年までの財政赤字見通しを9500億ドル(約850兆円)と発表した」。

 また、「米行政管理予算局(Office of Management and BudgetOMB)」は同日、09年の財政赤字予想を15800億ドル(約170兆円)から15800億兆円)に下方修正した。しかし、修正後の赤字額でさえ国内総生産(GDP)の11.2%をも占める割合で、今後も長く、アメリカの大幅な財政赤字が続くことを示唆した。それは、米議会予算局が「第2次大戦以来、最高の赤字額になるだろう」と警告したほどのおおきな規模である。

  台頭する排外主義

  このように、米帝は、冷戦終了後も戦時体制にある。戦時体制に見えないとすれば、それは、アメリカ本土が攻撃され、戦場になっていないからかもしれない。しかし、9.11事件は、米本土の金融資本の中枢である世界貿易センタービルと米国防総省(ペンタゴン)を襲ったように、本土が戦場となった事件である。また、その後の出入国管理強化は、アメリカ人はもとより、海外からの渡航者に、以前よりは戦時を実感させているだろう。さらに、オバマ大統領は、就任演説で、愛国心を強調し、アメリカ人と非アメリカ人という区別を強化した。

 それと対応するかのように、日帝は、排外主義を強化しつつある。その表われが、入管関連法のこの間の改悪攻撃である。それは、『情況』6月号の山本興正氏の「日本社会から消去、排除される人々、最近の在日外国人管理政策の変化をめぐって」が指摘するとおり、在日外国人管理を法務大臣に一元化し、治安対策として一本化し、坂中元東京入管局長が、多文化社会化という一見聞こえのいい政策を顕揚しつつ、実は、法や官僚の裁量や偏見に犯されやすい一般世論などを利用して、合法的外国人労働者という日本にとってよい外国人と「不法」外国人という日本にとって悪い外国人という、国益による差別・選別を強化しようというのである。基本的な基準は、「在日特権を許さない市民の会」などの排外主義右翼と同じなのである。

 しかし、労働者大衆にとって、非合法だろうとなんだろうと、この地で富を生産した外国人労働者を排斥する理由などない(「労働と自然は、富の源泉である」マルクス『ゴータ綱領批判』)。国籍がどうあれ、生み出された富は富だ。それから、同論文が指摘しているとおり、日本の入管政策の基本が、在日朝鮮人対策であることは明らかだ。

 そうした日帝の排外主義を代弁し、市民運動スタイルで、街頭行動を活発に行っている右翼「在特会」は、ホームページで、会の設立目的を「在日特権を許さないこと」と述べ、その代表例として、91年施行の「入管特例法」で新設された「特別永住者」という在留資格をあげ、それを「旧日本国民であった韓国人や朝鮮人などを対象に与えられた特権」だと言う。それは、「日帝の被害者」「かわいそうな在日」という妄想から抜け出せない日本人の誤った歴史認識から生まれたので、それを正すことが必要だと言うのだ。そういう理屈で、かれらは、全国各地で、在日外国人地方参政権反対運動を行なっている。今、かれらは、在日外国人地方参政権付与に積極的な民主党政権が誕生したことに、危機感を強めている。

 かれらは、関西生コン労働運動や指紋押捺拒否闘争や反外登法闘争を先頭で闘った故・高英三氏が、「断固たる自分 高英三という生きざま」という講演録で、今でも見えない差別があると語っているような在日朝鮮人としての感覚を、歴史認識というイデオロギーで、真っ向から否定しているのだ。しかし、このような感覚は、頭での抽象的な認識だけを認識と信ずるような転倒に陥らなければ、理解可能である。同じ民族ではなくても、そうなのだ。「在特会」の差別排外主義は、そのような絆を断ちきろうとするものだ。

 それは、この不況下で、希望を見だせない若者などを、差別排外主義へと引き寄せかねないし、815日に、「在特会」を含む右翼が反靖国のデモ隊を襲撃し、負傷させるなどしたことに示されたように、ファシズム的な性格を帯びつつある。それを支えているのは、国家に奉仕する神官=官僚であり、支配階級である。

 

 新たな計画を創造する大衆的な力の発展を!

 

 この間、日米帝国主義同盟、ブルジョアジーの利害の政治代表で、官僚と癒着してきた自・公政権は、グローバリズム・新自由主義・階級権力の強化を推し進めてきた。その結果、大量のワーキングプア・「持たざる者」=プロレタリア、格差、貧困が生み出された。自・公政府が倒れた今、公正・連帯・平等な社会への変革を推進する大衆運動を発展するチャンスとしなければならない。

 連立政権合意の中で、労働者大衆の利益になる部分は、その推進を推し進め、大衆運動と共にそれを実現するように圧力をかけるが、反労働者的なものは、批判・暴露していき、ワーキングプア問題など、目の前に生じている諸矛盾が根本的には資本主義から生まれていることを暴露し、その意識を労働者大衆の中に広めていくことが必要だ。労働者大衆の利益となるならば、レーニンのように、福祉国家などのブルジョア的方策を、その暴露を止めないで、支持することもあり得る。そのような条件の下でも、資本主義に根本的に代わる共産主義運動を発展させることをどこまでも追求する。例えば、福祉国家ならば、ブルジョア的計画経済か、プロレタリア的計画経済かという選択肢を提示して闘う。その際には、プロレタリア的計画経済は、階級闘争の中で、計画立案―執行の力を育成する大衆運動を発展させることを必要とする。

 それは、共同の議論や教育や経験を通じて育つのであり、当然、政治論議、政治経験も含まれる。それを切り離せば、その力はきちんと育たない。スローガンをめぐる議論や内部の調整や外部との調整、情勢判断等々は、政治経験であり、それを政治問題として対象化し、議論を形成する必要がある。そうした議論と経験を大衆的に組織し、政治経験を積み、広範な大衆を政治生活に参加させることが必要である。それが、闘う力と同時に未来を準備する力を育むのである。

 ソヴィエトであれ、自主管理であれ、社会的ユニオニズムであれ、こうした大衆の大規模な行動なしには、社会変革の力を強化することは出来ない。それを推進する共産主義運動の一翼として、現在の諸条件を活用しつつ、新たな社会を準備し、共産主義社会の展望を切り拓くことだ。

 

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