差異ある結合関係             新たな国際主義を

流 広志

 

 一昨年のリーマン・ショック破綻を契機に世界的な景気後退が起きている。今、ギリシャは、「09年の財政赤字が欧州連合の財政基準である国内総生産(GCP)比3%の4倍以上となる12.7%に達し」(3月19日毎日)ている。「ギリシャ経済は過去80年間で最も深刻と思われる金融危機を迎え、GDP成長率は、2009年第1四半期は前年同期比−0.5%、第2四半期は−1.2%、第3四半期は−1.7%となった」(0912月在ギリシャ日本国大使館HP ギリシャ最新経済情報)。パパンドレウ連立政権は、大幅な公務員削減などの緊縮財政や付加価値税の増税と引き換えに、IMFやEUなどの支援を求めた。それに対して、昨年から、労働組合などの激しいデモやストが繰り返し行われている。今年2月24日には、ゼネストと共に、アテネで約2万7000人、テッサロニキで約7000人のデモが行われた(2月25日AFP).3月4日には、共産党系の労組PAMEの組合員約200人が財務省のビルや会計検査院を占拠し、道路封鎖を行った(2月25日ブルームバーグ)、5月5日には、アテネで公務員ら約3万人(政府発表)、全土で30万人と言われるデモが行われ、アテネでは、デモ隊と機動隊が激突し、多くの逮捕者・負傷者が出た(5月6日CNN)。ギリシャの経済危機に対して、5月18日の欧州連合(EU)のユーロ圏16カ国の財務省会合は、「EUと国際通貨基金(IMF)が計200億ユーロ(約2兆3000億円)を融資することで合意した」(5月18日日経)。これによって、ギリシャ政府は、19日の85億ユーロの国債支いの危機を当面しのいだが、これは、世界経済の危機や世界秩序の動揺が深刻化していることを示す一例にすぎない。

 その他に、例えば、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の「Asulum Levels and Trends in Industrialized Countries 2009(先進工業諸国の難民の水準と傾向2009)によると、08年から09年にかけて難民が増加した主な国と増加率は、ハンガリー(+697%)、チェコ(+134%)、グルジア(+102%)、モーリタニア(+57%)、ジンバブエ(+54%)、アフガニスタン(+45%)であるが、これらの国々で、今、大きな政治的経済的危機が起きているのが伺える。総数では、2009年のトップテンは、アフガニスタン→イラク→ソマリア→ロシア連邦→中国→セルビア→ナイジェリア→イラン→グルジアの順である。ただし、これは、先進工業国44カ国のデータであり、これ以外の国に逃れた難民や「国内難民」は含まれていない。こうした世界秩序の動揺に対応する米帝オバマ政権の世界戦略の再構築は、QDR2010(前号早川論文参照)で、米軍の世界的再編、「二正面作戦」の放棄、「対テロ戦争」への集中に示された。

 

 「対テロ戦争」としての入管体制の再編

 

 2001年9・11事件後、アメリカでは、国土安全保障省が創設されて、テロ対策の強化が図られ、その一環として、移民帰化局を管轄下に移した。そして、「新しいアメリカ人プロジェクト」で、新移民の「アメリカ人」化という同化政策を進めている。

 日本でも、9・11事件後、入管体制の再編・強化が進められたが、それは、まずは、出入国時のチェック体制の強化として始まった。2003年版「入管白書」は、「出入国管理行政に最も大きな影響を与えたのは、平成13年9月に発生した米国同時多発テロ事件です。この事件を機に、国際社会はテロの撲滅に向け、これまで以上に協力関係を強化しましたが、その中でもテロリスト等に対する水際での阻止が強く求められました。入国管理局においては、この期待に応えるべく、全局を挙げてテロリスト等の上陸阻止に取り組んでいます」と、テロ対策を重点課題としてあげている。

 2000年3月に出された『第2次出入国管理基本計画』は、「『円滑な外国人の受け入れ』と『好ましくない外国人の排除』の両施策を通じて、出入国管理行政は我が国社会の健全な発展と国際協調の進展に貢献するべきものとの考え方に立ち、「円滑な人的交流の促進」や『不法就労外国人問題への対応』を主たる課題とした」として、「よい」外国人の積極的受け入れと「悪い」外国人排除を出入国管理行政の基本とすることを確認しつつ、「国際化の進展とともに、通信・運輸手段の発達と経済システムの自由化の進行によるグローバリゼーションへの対応を基調としていた。それが、5年後の「第3次基本計画」になると、「人口減少時代における出入国管理行政の在り方」という観点が現れ、さらに、「平成13年9月に発生した米国同時多発テロ事件を契機として、テロリスト等の国際間の移動を水際で確実に阻止することが国の内外において一層重要な課題となっている」と、テロ対策・治安管理強化が重要課題として前面に出る。2007年には、入国する外国人に指紋・顔写真の提供が義務づけられた。その基調は、2010年の「第4次出入国管理基本計画」でも同じである。入管政策は、アメリカが「対テロ戦争」に突入して以降、グローバリゼーションへの対応というテンが消えて、テロリストの上陸阻止、不法滞在者の摘発強化、外国人犯罪の取り締まり強化など、出入国管理体制の厳格化という治安・管理体制の厳格化という治安・管理体制強化中心に変化している。08年版「入管白書」は、「出入国管理行政は、国際交流や経済の発展等のために外国人を円滑に受け入れ、同時にテロリストや犯罪者など、我が国の安全・安心を脅かす外国人に対しては厳格な対応を行っていくという、円滑化と厳格化の双方の方策を、同時に、的確に遂行していく必要があります」と書いている。

 同時に、入管は、08年版「入管白書」において、入国・在留する外国人の増加に対して、その目的の多様化によって、入国・在留する外国人状況を正確に把握することの重要性が増しているとして、これまでの「出入国管理及び難民認定法に基づく入国・在留審査と、外国人登録法に基づく外国人登録制度」という二元的処理では、十分に在留外国人の居住・就労の実態が把握できないと書いている。すなわち、2005年7月19日に、「犯罪対策閣僚会議の下に「外国人の在留管理に関するワーキングチーム」を設置し、外国人の在留情報の把握や在留管理の在り方について、法務省を含む関係省庁で検討を進め」、07年7月3日に、「外国人の在留資格に関するワーキングチームの検討結果について」を犯罪対策閣僚会議に報告した。それは、「外国人の在留管理の在り方につき、法務大臣による在留情報の一元的把握、所属機関の協力、行政機関の情報の相互紹介・提供、正確な在留情報に基づく的確な在留管理といった方向性」を示したものだ。外国人の入国・在留状況の把握が、犯罪対策会議の下のワーキングチームによってなされている点に、狙いが露骨に示されている。プライバシーや人権よりも、情報の法務大臣の一元管理、そして、在留情報の相互利用の促進など治安優先なのだ。それは、住民基本台帳制度と似た新たな「適法な在留外国人の台帳制度」を作り、それによって在留外国人管理をするという昨年の「入管法」と住民基本台帳法のセットの改悪に具現化される。住民基本台帳法改悪では、外国人台帳の創設とその住基ネットへの接続が規定された。そして、同時に行われた入管特例法の改悪によって、「在日」が多くをしめる特別永住者もそこに含める方向性が示されたのである。07年6月22日に閣議決定された「規制改革推進のための3カ年計画」が、在留外国人の入国後のチェック体制の強化として、外国人に係る情報の相互紹介・提供、外国人登録制度の見直し、使用者等受入れ機関等に対する責任の明確化等が盛り込まれ、遅くとも21年通常国会までに関係法案を提出することとされた(08年版「入管白書」)というのがそれである。

 91年の入管特例法によって新たに設けられた旧植民地出身者の特別永住という在留資格は、中味を剥奪されようとしている。「高度人材」を中心とする外国人の積極的受け入れというグローバル化とテロ対策などの治安管理体制・国境管理の強化という二重の政策を同時に推し進める中で、難民や「在日」や在留外国人は、その狭間にあって、揺り動かされる立場に置かれているわけだ。しかし、この間、外国人管理強化の方向が前面に出ている。

 先日、大阪府茨木市の西日本入管センターで、収容者約80人が処遇の改善を求めてハンストに起ち上がった。茨城県牛久市の東日本入管センターでもハンストが行われた。難民申請者の多くは、長期化する裁判のために、生活苦や精神的苦痛を味わわされているが、その間にも突然収容されたり、退去強制の可能性がある。ちなみに、昨年の日本の難民認定数は、わずか30人だ。難民問題は、まさに、今日の世界の政治・経済状況をビビッドに反映する存在である。こうした人たちが多く発生しているのは、今の世界秩序安定のリーダーを自認するアメリカの世界政治が綻びつつあることを示すものだ。世界経済は、サブプライム・ローン破綻以降、長期不況に入り、未だに出口を見出せない状態にあり、それが、ギリシャの国家破算にも現れている。アフリカでも、国家破綻に近い状態の国が多くある。難民発生の要因は、拡大している。プロレタリア大衆や共産主義者も含む反政府活動家などが、危難を逃れる庇護先を求めている。かれらとの連帯を、1871年のパリ・コミューンが、ビスマルクと手を握ったヴェルサイユ政府の手で、虐殺や投獄などの血の弾圧にあった後、多くのコミューン戦士が、海を渡って、ロンドンに逃れてきたのを、マルクスたち第一インターナショナルが支援したように、国際連帯の闘いの一環とする必要がある。

 

差別排外主義に反対しファシズムの解体を

 

 数年前より、「在日特権を許さない市民の会」などの「行動する保守」を自称する排外主義者たちが、「慰安婦」問題への取り組みや日韓連帯集会を妨害したり、京都の朝鮮学校を襲撃しあり、京都府宇治市のウトロ地区や大阪市生野などの「在日」の集住地区に差別・排外主義的なデモや街宣活動を行ったり、大阪梅田駅前の慰安婦問題を訴える「水曜デモ」を襲撃し、東京三鷹市での慰安婦展示の妨害などをしている。また、各地で、「在日」特権を許さないとして、行政訴訟などを起こしている。また、かれらを批判する記事を載せた「東京新聞」などのメディアを攻撃し、東京で昨年9月に、秋葉原デモ、今年1月24日には全国大会と新宿デモ、など、街宣活動、講演会などでの「啓蒙」活動を行い、永住外国人地方参政権反対、入管特例法廃止などを訴えている。来る韓国併合100年の8月22日には、「韓国併合を祝う国民大集会」なるものをぶちあげている。それに対して、大阪での「水曜デモ」の防衛や4月の排外主義に反対し朝鮮学校襲撃を糾弾する集会が約800人を結集して行われたのをはじめ、5月30日には、大阪で、排外主義を許さない関西集会が多くの労働組合や市民団体・個人を結集して行われる。差別・排外主義の跳梁跋扈を許さない人々の動き、国際連帯の動きが活発化している。かれらの差別・排外主義攻撃のターゲットは、「在日」ばかりではなく、他の外国人にも向けられている。また、一部には、ファシズムへの志向が見られる。背景には、雇用の非正規化、長期不況などの情勢があると見られる。特に、高成長する中国の脅威が強く意識されている。

 この間、入管は、排外主義的市政を強めているが、それと、民間の差別・排外主義・ファシズムの台頭を許してはならない。

 民族的抑圧・差別をなくし、民族や国家に分断されているプロレタリア大衆同士の自由で平等な交通を促進するための一般民主主義的な方策の実現は、共産主義運動にとっても前進である。それを阻害するのは、民族的偏見・差別ばかりではない。利用主義や代行主義もあれば、運動の分散への拝跪や統一の押し付けもある。そうではなく、分散の中に差異ある統一を形成することだ。それが可能となる運動形態を見つけだすことだ。そして、闘いの場を拡大・深化することだ。共産主義運動は、それを促進するイニシアチブを生み出す必要がある。そうして、大衆の自由で平等な社会関係創造の力を引き出し、政治・社会革命と結びつけることだ。ブントがその可能性を垣間見せたが、それが、自在な戦術の駆使を可能にするのだ。

 入管体制との闘いは、「対テロ戦争」体制との闘い、差別・排外主義との闘い、社会革命を阻む体制との闘い、「在日」の権利を守る闘い、在留外国人の権利を確立する闘いでもある。そこを面向かねばならないのは、国境による分断を超えて、プロレタリア・被抑圧大衆の連帯の絆を強化する国際主義である。

 

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