新たな共産主義潮流の建設に向けて

流広志

 

共産主義者協議会結成の意義

 

 経済危機が深く世界を捉えている中で、共産主義者協議会は、発足した。私は、小さな一歩だが、90年代以来の長期の混迷と停滞の時代を脱する共産主義運動の新たな一歩を踏み出したと言いたい。

 その意義は、まず、ドグマやステレオタイプや固定観念や臆見などから、自由に、未来を切り開く新たな共産主義運動と政治潮流の建設を目指すことにあると私は考える。

 そのためには、清算主義を否定しつつ、レーニンをはじめとして、様々なものから新たな可能性を引き出すことも必要である。もちろん、時代も地域も状況も違う1917年のロシアでの革命と同じ事をするのは不可能である。しかし、ロシア革命は、レーニン個人の事業ではなく、大衆の起こした事業であるから、その歴史から学び、教訓を引き出すことは当然である。また、レーニンが、どうして、大衆の革命事業の促進に適合する政治や思想を築き得たのか、ロシア共産党10回大会で一時的例外的措置として条件付きで禁止されるまで生きていた分派容認のボリシェヴィキの党原則は共和主義と合致するのかどうか、彼が言った徹底した民主主義によって民主主義を超える、つまり、民主主義=国家の廃絶をどうしたら実現できるのかなど、彼が、取り組みつつも実現できなかった諸課題を継承し、今日の条件の中で追求することも必要である。むろん、これは、レーニンやロシア革命に限らず、ドイツ革命、キューバ革命、中国革命、ローザ・ルクセンブルグ、グラムシ、戦後革命、ブント、60年安保闘争、等々も含めて同じである。

 それから、第一インター的な共産主義運動を新たに甦らせることが必要だ。それは、一つには、グローバル化した資本主義に対して、プロレタリア(無産者)の国際的な闘いと国際連帯が必要だが、第一インターは、1871年の普仏戦争の際に独仏労働者の国際連帯を作るなど、プロレタリア国際主義の実践を実際に組織した点で、今求められている国際主義の一つの模範的前例だからである。 二つには、第一インターは、プロレタリアートの解放運動を促進することを中心任務としていたが、今日の格差社会化・貧困化・二極化が進んでいる状況の下で、プロレタリア解放を中心的な課題とする必要があることが共通しているからである。共産主義者同盟は、共産主義思想の普及・啓蒙を主な目的とし、ブルジョア革命の中で、プロレタリアートの解放闘争を追求するものであったが、1848年革命が敗北して、挫折した。その経験の上に、第一インターが創設された。それは、ブルジョア社会の中で、プロレタリアート独自の運動や組織を形成して、その自己解放闘争を発展せしめようとするものであった。三つには、今日、グローバリズムによる世界的な資本攻勢によって、既存の労働運動や社会運動が築いてきた既得権が攻撃され破壊されている中で、その既得権に依拠してきた労働者組織や政党や運動が無力化しているが、その下には、膨大な数の労働者大衆が存在しており、かれらをプロレタリア側に獲得し移行させるヘゲモニーの構築が求められているが、それには、セクト主義は危険なものであって、スターリニズムはもちろん、宗教セクトなどのセクト(宗派)主義を排す必要があり、まさに、第一インターで、マルクスは、バクーニン宗派などのセクト主義と闘争して、プロレタリアの自己解放運動を発展させたが、それが今日必要だと考えるからである。最後に、レーニンが、晩年に、決まったかたちの党などはないと言ったことやマルクスが「百ダースの綱領よりも一つの実践」と言ったことなどを考えても、そして、今日の情勢を考えても、第一インター的な共産主義運動が新たに必要だと考える。

 

プロレタリアの共同政治新聞『赤いプロレタリア』

 

 私は、プロレタリアの共同政治新聞『赤いプロレタリア』が、戦前、治安維持法体制の下で、日本共産党の壊滅状態、労働者政党や組合の相次ぐ転向、天皇制権力への屈服、翼賛化など、困難な状況の中で、最高4万部を発行するまでに発展することを可能にしたと思われる『無産者新聞』の、「無産者のための、無産者による、無産者の新聞」という性格を持つ必要があると考える。似たものとして、ボリシェビキが発行し、労働者のカンパや記事提供によって支えられ、短期間で読者を大きく伸ばした初期の『プラウダ』がある。今、このような新聞は存在しない。しかし、現在、グローバル化の中で、恐慌が勃発し、世界同時不況が深刻化する中で、世界の人口が、少数の「持てる者」と多数の「持たざる者」に、急速に二極分解する状況になっているので、このような新聞の潜在的読者、潜在的支持者が、日に日に増えていると推測される。強力な前衛がないのも、『無産者新聞』や『プラウダ』創刊時の状況と似ている。しかも、「持たざる者」の自然発生的運動が、若者を中心に拡大しており、労働運動でもストライキなどの闘いが、以前よりは活発化している。世界の多くの国や地域で、こうした闘いは、以前より、はるかに活発になっている。この点でも、私は、プロレタリア(無産者)の共同政治新聞『赤いプロレタリア』の試みは、今日の時代状況にマッチしていると考える。

 

世界経済危機と格差拡大とプロレタリア化

 

 サブプライム・ローン破綻を引き金に発生した米帝発の金融恐慌は、世界経済に経済危機を波及させた。世界経済の09年の成長率は、IMF(国際通貨基金)の見通しで、戦後初めてマイナス成長(0・3%)が予測されている。先進国では、08年の第4四半期には、実質GDPが7・5%下落し、09年第1四半期も同様と見られている。特に、九〇年代以来、世界経済の成長を牽引してきた中国経済が失速しているのが大きい。日本では、内閣府が、10日に公表した、1〜3月の速報値で、実質GDPは、前期比で4%減、年率換算で15・2%減で、戦後最大の減少となった。これで、「第1次石油ショック時の74年1〜3月期(年率13.1%減)を2期連続で下回った(5月20日「毎日新聞」)。4期連続のマイナスは戦後最長。08年度の実質GDP成長率はマイナス3.5%で、戦後最悪。外需は、輸出が戦後最悪の26%減と、08年10〜12月期の14.7%減からマイナス幅を拡大した。いずれの、経済指標も戦後最悪を記録した。

 失業率が上昇する国が増えている。中国では、08年度の都市部の登録失業者数は、868万人、4・2%、今年度は、その目標を4・6%に設定している。今年、農村からの出稼ぎ労働者の中で、失業者が、2000万人発生し、新卒大学生、約700万人が職を探している。アメリカの失業率は、07年の4・6%から、08年5・8%、09年3月8・5%と急上昇した。日本の失業率は、08年4%だったが、今年3月には、4・8%に上昇した。

 この中で、社会格差が拡大していることは疑いないが、ジニ係数の動きを、OECDの統計で見る限りは、一部の国をのぞいて、80年から00年まで、格差が拡大している先進国が多いので、これは、むしろ、この間の資本主義のグローバル化の継続的な傾向の結果と思われる。それに加えて、日帝においては、一つには、新自由主義的な労働政策、すなわち、99年の労働者派遣法改悪、05年の製造業での派遣解禁、二つには、もともと脆弱であった社会福祉制度のさらなる解体と企業福祉制度の弱化、三つには、家族や共同体の相互扶助機能という社会的に存在してきたセーフティ・ネットの解体等による貧困化・格差社会化が進行した。それには、それを推進するための新自由主義イデオロギー攻勢が伴っていた。

 グローバル化した世界経済は、国境を越えて自由に動き回る資本の世界的な運動によって支配され、その結果、世界の多くの人々は、無力な存在にされ、右往左往させられ、様々な惨禍・災厄に見舞われ、零落・困窮を余儀なくされている。グローバル化の進展は、世界の人々を、一握りの富める者と多数の貧困者の両極に分解していき、「持たざる者」・プロレタリア(無産者)を増大させている。この、恐慌が促進した資本の「墓堀人」の大量の登場は、ブルジョアジーの頭に「弁証法をたたき込むだろう」(マルクス『資本論』)。

 

反グローバリズム運動を発展させる共産主義運動の創出を!

 

 資本主義的グローバル化に対抗する反グローバリズム運動のうねりが、世界的に起こっている。それは、帝国主義巨頭の集まりのサミットやグローバリズムの推進機関であるWTOやAPECなどの国際会議をターゲットにするなど、国際的な運動として取り組まれてきた。

 また、グローバル化の結果生じた貧困化に抗議し対策を求めて、年末から年明けに取り組まれた「年越し派遣村」運動は、日本社会に衝撃を与えた。それは、格差社会、非正規労働の実態、貧困化の現実を、広く世間に認知させ、政府をも動かした。また、12月28日に、イスラエルによるガザ空爆から始まったガザでのパレスチナ人へのジェノサイド攻撃に対して、世界で、何千万という人々が抗議行動に立ちあがった。1月には、フランスで何百万の労働者が参加するゼネストが闘われた。

 5月2日の「野宿者メーデー」、1日〜4日の「自由と生存のメーデー」、アイヌ・沖縄の連帯を掲げた薩摩侵略400年・アイヌモシリ併合140年・琉球処分130年を問う運動や米軍基地撤去を求める沖縄の闘い、グローバル化による農業自由化の波に抗して農業を守ったり、農業破壊・農地の資本への売り渡しや権力による土地強奪に対する継続的な農民の闘い、障害者、被差別部落民、在日朝鮮人、在日外国人などの反差別闘争、そして、「野宿者」や日雇い労働者の闘い、非正規労働者の闘い、改憲が狙う戦争への人々の動員や基本的人権の縮小などの生存権の否定などに対する6月14日の「9条改憲阻止の会」の反改憲の闘いなど、多くの領域での闘いが、今、反グローバリズムという包括的なスローガンの下で、「生きさせろ!」と叫ぶ、生存権をめぐる政治闘争と結び付きつつある。

 それらの多くが、反グローバリズムというスローガンと結び付きつつある。中でも、プロレタリアの解放、資本からの労働の解放がポイントだということから言えば、今、世界的に台頭してきている「社会運動ユニオニズム」の持つ意義は大きい。「社会運動ユニオニズム」は、既存のビッグ・ユニオンを中心とする「ビジネス・ユニオニズム」に対して、労働を軸に多種多様な社会運動を結合して取り組んでいる労働運動である。これまでも、労働運動は、社会問題に取り組まなかったわけではないが、基本的には、組織された労働組合員の利益団体としての性格を超えなかったし、それには消極的だった。それに対して、社会運動ユニオニズムは、フェミニズム運動、農民運動、反差別運動、地域運動などの社会的諸課題に取り組み、メンバーの利益を狭く図るという従来のユニオニズムの枠を突破して、社会問題への取り組みを労働運動のミッションとして取り入れたのである。

 それらには、「持たざる者」であるプロレタリア(無産者)の全面的な解放の理論意識であるマルクスやレーニンの共産主義意識とその実践と結び付く自然発生的な萌芽がある。その結合によって、それらの解放闘争は徹底的に闘われるようになる。それが、マルクスが発展させた唯物論や資本主義批判や現実暴露や理論的意識などと結合することによって発展し、そのヘゲモニーが、プロレタリアの感性をもとらえ、一つの社会的存在としてプロレタリア大衆の多くに認知された時、初めて、前衛の名にふさわしい実態を獲得できるのである。それまでは、前衛の名は、意志表明として掲げている一本の「旗」に止まらざるを得ない。だから、今は、それを自覚しつつ、レーニンが、晩年に、ロシア革命の再構成を意図しつつも、その困難性を自覚して、「深く学ぶ」ことを強調したことや「大衆と溶け合う力を持たなければならない」と言ったことを、自らのものとすることが必要である。

 しかし、今日、資本主義がもたらす惨禍・災厄・零落・差別等々と闘うプロレタリア大衆の自然発生的な闘いが高揚しつつある状況が来たが、それに遅れを取らないことが、共産主義運動に求められているので、実践的唯物論者=共産主義者として、できるだけ早く、深く学ぶことが必要になっている。共産主義者協議会と『赤いプロレタリア』が、それを促進する場になり、プロレタリア(無産者)の解放の武器となり、結びつきを作り、信頼の絆を発展させる場となることが必要である。それには、知的・道徳的、感性的、実践的等のヘゲモニーの構築が必要である。また、反グローリズム運動や帝国主義・資本主義からの解放闘争や民族解放闘争や反差別運動などと連帯し、国際的な友愛と正義の絆を形成することも必要だ。

 力量は限られているが、厳しい時代にあって『無産者新聞』を自分たちの新聞として発展させたような先人たちの実践からも学び、共産主義者協議会と『赤いプロレタリア』を通じて、新たな共産主義運動を創出し、一歩でも前へ進めたいと私は考える。

 

 

 

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